どうも、「岩本愁猴のスナックあぜみち」です。
大学院で雑草の分布や生長について研究しています。
「三つ子の魂 百まで」と申しましょうか、子供の時分から身近な動植物が好きで、
それが高じて農学の徒となった次第です。
皆さんは小学校の夏休みの宿題で、「植物採集」や「昆虫採集」をしたことがありますか?
私も小学校の頃、福井県の実家近くの山で植物採集をしました。
採ってきた草花を新聞紙に挟んで、名前を調べて。
普段はその辺にある緑の塊くらいにしか思っていなかった草むらに、すごく沢山の種類の植物があるんだという、新鮮な驚きがありました。
ただ、物足りない点も。
標本の台紙には種名の他に採集した日時や場所を記入する欄もあったけど、
ここに書ける情報がどうにも薄い。
特に場所に関しては、「○○山登山道入口付近」「○○市○○町 田んぼの畔」くらいが、書き込める情報としては関の山。
他の人がその標本を見ても、「ふーん、だいたいこの辺なんだー」くらいしか伝わらない。
興味を持ってくれた人に場所を伝えようとしても、街中ならともかく田んぼや野山だと目印になるようなものが極端に少ないので、地図上でざっくりこの辺ですって言うか、「○○さんとこの田んぼの上から2枚目」というような、超ローカルな伝え方しかできない。
さらに勿体無かったのは、過去に同じように植物採集やった先輩たちの記録と突き合わせられなかったこと。
せっかく多くの小学生たちが連綿とやってる調査なのに、それらを蓄積してまとめようっていうことはしない。「はーい、夏休みよく頑張ったね」で終わってしまう。各自の家の押入れの奥に入ってしまえば、再び日の目を見ることは無い。
中には何年も同じ場所で調査をしたり、特定の植物をターゲットに調査を続けるというエラい子もいるでしょう。でも、そういう熱心な子に過去の記録を与えたらもっと良い仕事するだろうに。
それに、地域の小学生が毎年集めてるこのデータ、大人が集めようと思ったらどれだけの時間とお金がかかるか。地域の生物相について知りたいなら、利用しない手はありません。
時は下って2017年。
情報の保存や共有が、すごく簡単な時代になりました。
スマホやタブレットで写真を撮れば、時間と位置情報が自動的についてくる。
しかも、撮ったその場でSNSにupできる。
すごいことです。
ちょっと前ならGPSでいちいち測位してたし、もっと前なら紙の地図に印をつけてた。
時間もいちいちノートにメモってた。
調査にかかる手間が格段に減るってもんです。
画像に時間と位置情報がついてるなら、
それを時系列で並べたり、地図上に表示したりすれば、整理や考察がしやすくなります。
さらにそれを他の人たちと共有できたら、データの数は一気に増えます。
そういう風なことが手軽にできたらなー・・・
と、思っていたら!
ちゃんとそんなアプリがあったのです!
今日皆さんにご紹介したいのは、「iNaturalist」でございます。
自分のアカウントを作って、アプリをインストールすれば使えるようになります。
使い方は簡単。
アプリを起動して、生きものの写真を撮ります。
そして、その生きものの名前を入力します。
(種まで分からない時は、「チョウ」「菌類」といったざっくりした分類でもOK!)
あとは「共有」を押せば、記録が残ります。
自分の記録を時系列で並べてみたり、地図上に表示したりできます。
さらに、世界中の人が見つけた生きものの記録も、見ることができます。
その種類の生きものが世界のどこで発見されているか、分かるのです。
例えば、「wakame」で検索すると、日本でも記録が表示されますが、
1か所、イギリスに印がついています。
東アジア原産のワカメが、イギリス南部のボーンマス付近の入江で見つかっているのです!
写真を見てみると確かに、ワカメです。ビラビラの「めかぶ」もついてます。
これを見た別の利用者からのコメントに、「nasty stuff」とあります。
「nasty」=「不快な」、ということで、
当世風に訳すなら「キモwww」ってなところでしょうか。
日本では普通に食卓に上るワカメですが、所変わればこういう扱いを受けます。
ワカメなどの海の生きものが、船と一緒に世界中を旅して、行く先々で定着し、問題になっています。
これを使えば、そうした生きものの分布の広がりを知ることもできるのです。
私も「iwamotoshuko」の名前で登録しています。
伊那を中心に日頃見かけた生きものを記録しているので、よかったら覗いてやって下さい。
主に「強害雑草」と「キノコ類」に注目して記録を残していっています。
これだけ言っておいてなんですが、ひとつだけ注意点を。
こういう生きものの情報は何でもかんでもオープンにすりゃ良いってもんじゃありません。
どこそこに珍しい動植物がいるなんて情報を迂闊に流すとヨソからも人が来るようになるんですが、
その中には一定の割合で、自然や地域住民との接し方をわきまえないタダのミーハーな人たちがいるのも事実。
最悪の場合、踏み荒らされたり乱獲されたりしかねません。
場合によっては、地域の人たちや研究者でグループを作って、その中でだけ情報を共有できるような仕組みも必要になるでしょう。
その場合、「どの範囲で共有するか」が重要な問題になります。
また、ネットワーク上では非公開にできても、口頭ではいくらでも言えてしまう。
グループ内で外に対してどういう姿勢で行くか、議論する必要があります。
うまく使えば、自由研究のネタがたくさんできそうです。
生息域の変化とか、調べてみたら面白いと思います。
これまでは「こんな生きものがいたよ」で終わってたけど、その変化を地図上で見ることができる。
じゃあどうして変化したの? 気候のせい? 管理方法のせい?
ってな考察ができるようになる。
単発的になりがちな生きもの調査が、シリーズ化されて繋がっていきます。
この「iNaturalist」は生きもの専用のシステムですが、
生きものに限らず、これと同様に時間と位置情報を共有するシステムがあれば、
そこにはすごく可能性があると思います。
例えば地域の歴史ある建物とか遺構とかを住民の手で記録していけば、手づくりの歴史マップができます。
或いは、危険と思われる場所を記録して共有すれば、防犯・防災の役にも立つでしょう。
ひとりひとりの情報を共有することで、新たな発見があるはずです。
実際にこういうのがあったら、ぜひ教えて下さい!
皆さんも、スマホを片手に摩訶不思議アドベンチャーしてみませんか?
街や野山を歩くのが、ちょっと楽しくなりますよ。