平成広益国産考

どうも、「岩本愁猴のスナックあぜみち」です。

 

だいぶ更新の間隔が開いてしまいましたが、開店しておりますよ。

 

 

 

去る11月23日(木)、伊那市の赤石商店にて、映画「よみがえりのレシピ」上映会&記念トークイベントが行われました。

 

前回の記事にも書いたとおり、トークイベントでは私が司会を務めました。

3人のゲストを迎え、信州の在来作物の魅力やその活用法についてお話を伺うことができました。

 

会場が一杯になるほどのお客さんに来ていただいて、本当にありがとうございました!

さすがにド緊張してしまい、拙い司会で恐縮でしたが、私にとっても大変良い修行になりました。

 

 

 

在来作物をどう活かしていくか?という議論を聴いていて、

私はふと、ある本のことを思い出しました。

 

京都での学生時代、今出川通りの古本屋で見つけた一冊の本。

それは、江戸時代後期の農書『広益国産考』。

農学者・大蔵永常が諸国流浪の果てに集大成として著したこの本には、一貫した理念があります。

 

曰く、

「国産の事を考ふるに、国に其品なくして他国より求むるを防ぎ、

 多く作りて他国へ出し其価を我国へ取入れ、民を潤し国を賑す事肝要ならんかし」。

 

ここでは、「国産」とは「土地ごとの産物」という意味。

つまり、自分たちの土地で作れるものは作って、

わざわざよそから買ってくるんじゃなくて、逆に売り出して稼ぎましょうね、

ってことです。

 

 

もちろんこれは150年以上も前に書かれた本。

21世紀初頭の日本人の食生活は、江戸時代のそれよりはるかに多様化しているため、

日々の食事で使うもの全てを地産地消にすることは現実的じゃない。

物流や情報伝達も比べようもないほど発達している。

別々の農家からちょっとずつ買うよりは、

よそから大量に仕入れた方が手っ取り早い、ということもよくあるでしょう。

狭い範囲で、しかも辺鄙な土地で作られていることの多い在来作物には、不利な条件です。

 

 

しかし、在来作物には何といってもキャリアがある。

地域の気候や土壌に適した系統が、厳しい選抜をくぐり抜けてきている。

一方で、在来作物といえども近代的な育種技術の恩恵も受けていて、

かつては形や大きさが不揃いである事に悩んでいた産地が、

試験機関の協力を得て加工や流通に適した形質に揃えた例もある。

 

加えて、在来作物が数百年の歴史の中で人の手によって選抜されてきたように、

それを使った料理もまた、人の手によって洗練されてきました。

「○○カブは甘酢漬けに最適」とか、「おやきに入れるなら××ナスじゃなきゃ」とか。

在来作物は量では勝負できなくても、ハマったときのウマさは他の追随を許さない。

チャンスに代打で出てきて確実に良い仕事するベテラン選手、みたいな感じですかね。

 

だから、在来作物の価値というのは、単に植物の果実や根や塊茎に価値があるということではないのです。

地域の気候や土壌、作業や加工のしやすさによって選抜されてきた遺伝資源としての価値や、

料理や地場産業と結びついた文化的な価値もまた、在来作物の価値と言えるでしょう。

他の地域にはない、一朝一夕には生み出せない、その土地ならではの「国産」です。

 

 

 

それぞれに地域に伝わる「国産」の価値を、まずは地元の人間が知らなければ。

今日も伊那に伝わる羽広カブの漬物がウマい。ごちそうさまです。