研究者の仕事って何?

論文を書いていてふと思ったこと.
データ集めて解析して論文書いて・・・だけじゃ物足りないなあ,と.

 

論文は、コミュニケーションのための媒体です.
誰とのコミュニケーションか?といえば,主に「研究者」です.
ただし,ここでいう「研究者」とは,仕事で研究をやってる人だけでなく,ライフワークとしてやっている在野の研究者や愛好家も指します.

特に「分類学」「天文学」「考古学」「歴史学」「民俗学」「文学」「哲学」のような分野では,プロだけでなく在野の研究者や愛好家が活躍してきました.
(その中のスター的存在が,エリック・ホッファー南方熊楠です)
しかし,それは逆に言えば「それ以外の分野には,仕事で研究やってる人でないと手を出しづらかった」ということでもあります.
とりわけ,高価な装置や組織的な調査を必要とするテーマは,プロでないとなかなか手が出せなかった.

 

時代は変わりました.
情報の「共有」「解析」「発信」を今までよりはるかに速く,安くできるようになってきました.
調査データの共有は進んできていて,データの所在や利用方法を掲載するデータジャーナルというものもあれば,「iNaturalist」のような誰でも参加できるプラットフォームもあります.
オープンデータってやつですね.

でも,データやその集め方を共有するだけで十分なのか?
例えば昆虫少年を増やすことにはなって,それはそれで素晴らしい.
でも,そうやって探すことや調べることそのものに熱を上げられる人はごくわずかで,調べたことから何が言えるか?を示せないと,なかなか続かないのが現実です.
また,悪くすると研究者が市民をデータ集めのコマとして使い,そのデータで論文を「書き逃げ」するだけになりかねない.
そこからさらに踏み込んで,得られたデータを解析して,何が言えるか?までを研究者と市民が一緒にできれば,フィールド研究は次の段階に行けると思うんです.

 

僕らがやっている生態学は,生きものの生き様に純粋な興味を持ちつつも,その生物や生息環境をどう保全・管理していくか,という実際的な問題にも取り組んでいます.
そうなると,研究者間のコミュニケーションだけでは不十分で,実際の管理を行うことになる一般市民や業者さんたちともコミュニケーションが必要です.
そのコミュニケーションの中で,本当に痒いところが何処にあって,そこを掻くために何ができるかを一緒に探ることができます.
で,今はデータの共有にかかるコストが下がり,表現方法も多様化してきている.
これまでできなかったコミュニケーションができるに違いない.

 研究の仕事を分解すると,
・課題設定
・データ収集
・データ解析
・コミュニケーション
という具合になります.
これら一連の過程をデザインすることが,これからのフィールド研究者の大事な仕事なのではないでしょうか.
そうなるといま必要なのは,オープンデータを想定したデータの収集・解析の手法を研究し,普及することです.

 
先だって,雑草などの生物の分布を解析する用のjagsコードを「GitHub」に公開しました.

github.com
空間分布の二値データがあれば,その出現,死滅,侵入の確率を推定できます.
植物などの固着性の生きものを想定しています.
(説明書きがもう少しないと扱いづらいですよね,スミマセン・・・)
これのおかげでドローンの画像からクズの分布の変化をモデリングできたので,論文を鋭意執筆中です.

ただ,在/不在の二値データって,市民がやるにはちょっとハードル高いんですよね.
一度見れば「いる」ことはわかるが,「いない」ことを確認するには調べ尽くさないといけないから.
だから,日常の中で得られるデータは,大抵「在のみデータ」です.
そのためには.過去の記事でもお話しした「最大エントロピーモデル」を使って,在のみデータから生きものの分布を推定する方法があります.
これを使った論文が最近増えていますので,私もこれで外来雑草の分布推定をやりたいと考えています.