ものがたりたがりばかり

まなじ使えるデータや情報が増えると,なんでもかんでも,とかく結びつけたくなるもの.
壮麗な宮殿のような立派なモデルができると,仕事した感満載ですもんねー.
せっかく集めたデータを使わないともったいない気もするし.

どうしても人は物事を因果関係で結びつけた物語を創作する癖があるようで,
かくいう私もそう.「最近の学生は」とかつい思っちゃう.
年をとると尚更面倒くさがって,わかりやすいストーリーを作りたがるのかも.

数式やプログラムが書けたりするとそれをモデルに組み込みたくもなるんですけど,
そこは冷静に,AICでもRDでもベイズ ファクターでも使って,
重要じゃない変数をオッカムの剃刀でバッサバッサ切り捨てていくべきでしょう.

統計学者のオーリー・アッシェンフェルターらが作ったボルドーワインの価格のモデルは,こんな感じ.
「ワイン価格 〜 前年10〜3月の降水量 + 8, 9月の降水量 + ワインの年齢」
試飲しなくても気象データから価格の見当がつく,というもの.
この単純なモデルの前に,多くのワイン評論家が敗れ去りました.
「ワインは試飲してみなきゃわからない」って,専門家もみんなも思い込んでたんです.
だって,そんな感じするもん.

もちろん,この単純なモデルを作るためには膨大なデータが必要でした.
最後に残ったモデルが,少ない変数しか必要としなかった,というだけです.
モデルの変数が少なければ,運用時のデータを集める手間は省けます.
こういうモデルで農作業や生態系管理の支援をしたいものです.

モデルに人間と同じような過程を踏ませる必要はありません.
要は「人間と同等かそれ以上の結果が得られればいい」のですから.

「荷物を拾う確率は,他の荷物が周囲に少ないほど高くなる」
「荷物を下ろす確率は,他の荷物が周囲に多いほど高くなる」
という2つのルールのみに従うロボットを数台,荷物がバラバラに置かれた部屋でランダムに動かすと,
やがて部屋の中の数カ所に荷物がまとめられた,という実験があります.
こういう心配になるくらい単純な仕組みが案外,人間をルーティンワークから解放してくれるかもしれません.

 

で,人間が拵えがちな物語の中で一番安直で危険なのが「頑張ればうまくいく」.
こういうことを言っちゃいけない.特に大人が子供に対して言っちゃいけない.
いちいちご大層な「達成感=努力と成功の因果関係」を求めて,頑張ることが目的化して,
報われなかったり否定されたりすると不貞腐れる,面倒くさい大人になりかねない.

民間企業では,売上前年比○%増を目指すぞ!なんていう目標の立て方をするところが多い.
では統計学の本を開いてみましょう.時系列データの構造はどうなっているでしょうか?
「時系列データ = 短期の自己相関+周期的変動+トレンド+外因性+ホワイトノイズ」
このうち営業努力でどうにかなるのは,
「トレンド」を伸ばすか,別の市場に移って「外因性」を変えることくらい.
それなのに売上データをロクに分析もせずに目標立てて頑張るぞ!って,誰得なんですか?

頑張るのは当たり前.それでもうまくいかないことがある.
そこで別のことをやるかしつこく続けるか,じゃないですか?

ゴルゴ13」のデューク東郷は仕事の成功のために必要な要素として,
「10%の才能,20%の努力,30%の臆病さ,40%の運」
を挙げています.
もちろんこれは個人の見解ですが,東郷は経験からこのようなモデルを構築したようです.
凡百の少年漫画とは違って綺麗事はヌキ.これぞ大人ですね.

「うまくいこうがいくまいが,やるべきことをやる」の方が,よっぽど自然だと思います.

 

参考文献
O. Ashenfelter, D. Ashmore & R. Lalonde (1995) Bordeaux Wine Vintage Quality and the Weather. CHANCE, 8:4, 7-14.
J. L. Deneubourg, S. Goss, N. Franks, A. Sendova- Franks, C. Detrain and L. Chretien (1991) The dynamics of collective sorting robot-like ants and ant-like robots. Proc. of the 1st Int. Conf. on Simulation of Adaptive Behaviour, pp.356-365.
馬場真哉(2018)『時系列解析と状態空間モデルの基礎』プレアデス出版
さいとう・たかを(1988)『ゴルゴ13 (66)』リイド社