雑草と食べものから学ぶこと

だいぶ更新が空いてしまいました。

少し近況を書きます.

 

2021年春に福井県に戻りました。

今は酒米の品質向上という思いがけない課題をいただき,心機一転で励んでおります.

米粒の形状や構造が,登熟過程にどう影響されるか.非常に面白いテーマです.

またお酒というテーマ自体,その地域の気候・風土と技術・文化が問われる、総合科学だと捉えています.

 

信州ではリモートセンシングで雑草の空間動態を見てきたわけですが、

雑草を見る上で大切なのが、バラつきをどう扱うか?です。

何故ならバラつきこそ、雑草の強かさの一部と言えるからです。

もしも種子が均一で、同じ温度・湿度に置かれることで一斉に発芽したらどうなるか?

種内競争は激しいわ、日照りや寒の戻りが来たら全滅するわで、非常にリスキーです。

一方、イネの育苗だったら話は変わってきます。

同じ日に蒔いて同じように加温した種籾の生育がバラバラだったら、田植えがやりにくくってしょうがない。

作物は人間による選抜の過程で、野生ではあり得ないような均一な集団となりました。

しかし、それでも生きもの。個体ごとに差はあるし、個体の中でも早く咲く花と遅く咲く花があって、登熟にもタイムラグが生じます。

あんまりバラつくと、今度は加工や調理の時に厄介です。火加減、水加減、塩加減をどこに合わせたら良いかは職人にとっても悩ましい問題です。

しかし一方で、バラつくことによってそれらを混ぜた時にちょうど良い配合になるということもあるでしょう。

バラつきが美味しさにどう影響するか、非常に面白いテーマです。

 

バラつきを丁寧に扱うなら、ちゃんとデータの分布を見なきゃいけません。

分布を見ることで、その背後の構造とその変化を想像することができます。

そういう意味では、パラメータにも確率分布を持たせるベイズモデリングの考え方は、雑草にも食品加工にも適していると思うのです。

 

栽培植物は、生物としては均一ですが、原料としては逆に不均一という、微妙なところにいます。

だからこそ、生育、収穫、貯蔵、流通、加工、調理、実食といった田畑から胃袋に至る過程の中で、その確率分布を追っていく必要がある。

顕微鏡を覗いたり画像解析をしたりしながら確率分布を想像し、それをモデルで繋いでいく時間は、自分の仕事を一番美味しくいただけている気がしています。