Review: 地域情報共有のためのシステム

これまでこのブログでも書いてきたように,生きものの分布をマッピングするプラットフォームがいくつか存在する.
地域の情報の集約・共有は,生きものに限らず,防災や土木などの分野でも有用だ.
農業の分野でも,アグリノートやザルビオなどの圃場管理用のGISが普及しつつあり,栽培管理記録や水位・衛星画像などのデータベースとしてその機能を拡張し続けている.
これだけ色々使えるなら,もっと応用が効くのではないか?
今回は,地理情報プラットフォームを挙げて,できそうなことを考えてみたい.


Googleマイマップ
 もっとも馴染みやすいだろう.Googleアカウントがあれば誰でも使える.ポイントやポリゴンをレイヤーごとに分け,表示・非表示を切り替えられるのも良い.ただ,解析の機能は乏しい.
 共有もリンクを送れば簡単.また,リンクを知っている人だけがみられるようにすれば,内輪の情報共有にも使える.
 福井県丹南農林総合事務所は,地域のスポットをテーマごとにレイヤーに分けた「丹南農遊すごろくマップ」を公開している.
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/tan-noso/nouyu/sugoroku-map.html


・QGISCloud
 世界的に利用されているオープンソースGISである「QGIS」のクラウド版.QGISで作ったマップをそのままWeb上で閲覧可能にできる.
 見るには簡単で,そのまま高度な解析にも活用できる.マップを作るにはそれなりの技術と経験が必要だが,GIS初心者が勉強するには持ってこい.プラグインも豊富にあり,上級者も満足できる.


ArcGIS
 Esri社が提供するGIS.ライセンス料がしっかりかかってくるが,スマホ等で収集した位置情報付きの記録をアップロードできる「Survey123」など,フィールド調査に使える機能が充実.情報を集約するプラットフォームとしてアカウントひとつあると、研究・教育・政策決定など多方面に活躍する。
 新潟県長岡市では,Portal 機能を使うことで職員がGISを使うことの抵抗感が下がったという.
https://www.esrij.com/industries/case-studies/121842/


・Geodesign Hub
 参加者がWebを介してジオデザインに参加できる情報プラットフォーム.ジオデザインとは,スタイニッツ(2014)が提唱した,地理学と計画学とを融合し、地域住民と専門家の協働によって計画を立案するためのフレームワークのこと.
 京都府与謝野町では,立命館大学のグループと共同で将来計画のためのツールとして活用している. https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2017s/0/2017s_100296/_article/-char/ja/


GC maps for education
 Informatix社が提供する地理教育向けWebGISサービス.インストール不要で,Webブラウザがあれば誰でも地図を作成・閲覧・解析できる.高校で「地理総合」が導入されたことに対応しているようだ.
https://www.informatix.co.jp/pr_gcmaps_education/


また、こうした知のプラットフォームを作る取組みとしては、熊本大学の山下裕作氏らの研究課題「地方創生に資するモバイル型地域博物館システム構築と地域個性に基づく運用手法開発」がある.
https://cir.nii.ac.jp/crid/1040282256801453184
この中で,モバイル型地域博物館システム(Mobile Museum GIS)が構築され,実際に文化財のバーチャルツアーなどに活用されている.

 


何でも新しいものを作ろうとする時は,MVPを作って試してみるのが重要なので,まずはフリーのシステムで作ってみて、工夫を重ねつつ,周りを巻き込んでいくしかないだろう.
僕だったらどんな地図を作りたいか?


醸造産業の立地:地質と交通
 醸造は時間がかかり多くの資本と原材料と人手を要する.水質も重要で主に地質や地形が関わってくることから、特に古い時代においては立地が重要であったろう.
 酒蔵と交通網,さらには河川網・地質・地形などの地理情報をレイヤーごとに重ねることで,醸造産業の成立条件が明らかになり,ブランドとしてのストーリーを掘り下げていく助けになるだろう.例えば、福井県の大野盆地は格好の事例を提供してくれると思う。


農業法人・農村RMOの計画
 農業経営の法人化・大規模化に伴って、特にイネなどの土地利用型作物においては、農地の集積が進んでいる.しかし中山間地のような小さな圃場が広範囲に分散している場所では、集約しようにも遠くの圃場までカバーするのはコスパに難がある.近年各地で農家や集落の機能を補完するようになってきた農村型地域運営組織(農村RMO)にしても,広範囲をカバーすることになるため,共通した課題を有している.
 圃場や集落の立地とそれらのニーズ,必要な資材とコストをデータとして集約すれば,ひとつの事業体がカバーできる範囲や,拠点の適切な配置など,農村計画に有用であると考えられる.


外来種の侵入と地理的条件
 外来種の問題は,常に時間と人手との闘いである.対象エリアの広さと拡大スピードに対して,圧倒的に人手も予算も足りないのだ.
 これは,公衆衛生の古典的事例である,ロンドンのジョン・スノウ医師によるコレラ患者のマッピングに似ている.彼はコレラ患者の住所と給水網をマッピングしたことで,水道が汚染されている可能性に気づいた.
 雑草関係だとOsawa et al. (2010)がある。これは,特定外来生物でもあるアレチウリの侵入リスクを,河川網をもとに評価しマッピングしようというもの.
https://link.springer.com/article/10.1007/s13280-016-0782-9


コウノトリの採餌と里山環境
 各地で図られているコウノトリだが,その成否は生息環境にかかっている.コウノトリが生息するには多くの条件がある.コウノトリは季節によって採餌場所を変える.また,現在は人工の巣塔に営巣することが多いが,元来は松の木の上に巣を作っていたという.要するに,一定の範囲内に多様な環境が分布している必要がある.
 コウノトリの分布と地形や植生,土地利用をマッピングすることで,コウノトリの定着の可能性を評価できるのではないだろうか.それは裏を返せば,限られた人手でコウノトリの住みやすい環境を整備する際にも役立つだろう.
 実際のコウノトリの分布はGPSで追跡できるほか,日本コウノトリの会・東京大学中央大学の協働プロジェクト「コウノトリ市民科学」では,コウノトリの目撃情報を収集するためのアプリ「コウノトリくん」を運用している.
https://stork.diasjp.net/

 


GISの良いところは,様々なデータをレイヤーごとに格納してどんどん重ねていけることにある.
自然,経済,文化の情報を集約することで,地域の「バーチャル総合博物館」が作れるのではないか.
これまでありそうでなかったデータの組み合わせによって,思わぬ発見が得られるのではないか.
今度は、上に挙げたような身近なネタで実際に作ってみようと思う.

Review: 酒米交流会の諸相

いわゆる酒造好適米品種は、他用途への転用が難しい。そのため、酒米は酒造用に売り切ってしまいたい。経営を安定化させ、原料供給元としての信用を得るためには、収量と品質の安定化が求められる。
酒蔵としては、毎年一定以上の品質が欲しい分だけ確保できることが重要になる。各品種・産地の収量と品質が安定していることは、酒蔵にとっても望ましい状況だ。また、産地や栽培の状況を知ることは、ブランドイメージの向上にも役立つ。


酒米の生産農家と酒蔵、加えて農協や自治体が交流会を組織するケースが各地に見られる。
今回は、各地の交流会の取組みをまとめてみた。


酒米の酒づくりフォーラム,酒蔵・酒米生産者交流会
・地域 山形県
・主催 山形県酒蔵適性米生産振興対策協議会,
    山形県JA酒米研究会連絡協議会(事務局=JA全農山形)
・参加者 酒造メーカー,酒米生産者,県・JAの担当者ら
・内容
  優良酒米づくりコンテスト
  酒米づくり体験談発表
  酒造研究者の講和
  パネルディスカッション
  県産酒の振る舞い


○東北酒米生産振興セミナー
・地域 東北農政局管内
・主催 東北農政局(協力:仙台国税局,東北経済産業局)
・参加者 酒造メーカー,酒米生産者ら
・内容
  事例紹介・情報提供
  パネルディスカッション


○なんと酒米サミット
・地域 富山県南砺
・主体 JAなんと・JAなんと酒造好適米生産組合
・参加者 全国の酒造メーカー,管内の酒米生産者ら
・内容
  酒米圃場視察
  講演・パネルディスカッション


こうして見てくると,酒蔵と生産農家が同じ目線に立つことが図られていること,
その主体として何らかの研究会が組織されていることがわかる.
次は,研究会組織の目的と実態について調べてみたい.

Review: 植物の空間分布と管理の影響

圃場の雑草を防除するにあたり、今まであまり注目されてこなかったのが「雑草の空間分布パターン」である。
雑草と一口に言ってもその生態は様々で、その繁殖や種子散布の方法によって、均一な分布を示すものもあれば、集中的な分布を示すものもある。空間分布はまた、耕起や除草などの撹乱によっても変化すると考えられる。
農地における雑草防除の目的は、雑草を根絶やしにすることではなく、一定の密度以下に抑えることである。作物と雑草の競合は圃場の各所で局地的に起こるもので,圃場全体の雑草は少なくても,局所的に雑草が繁茂すればそこで作物との競合が生じ作物は減収する.逆に,圃場全体に雑草が見られたとしても分布が分散していて各所での密度が低ければ,減収とはならない.


草量の分布を表すモデルとしては,対数正規分布やワイブル分布が経験的に用いられるが,ガンマ分布(Shiyomi et al. 1983)はその生物学的根拠が明らかである.また,このモデルのパラメータpから,空間的不均一性を評価することができる.
 0<p<1: 不均一,p=1: ランダム,p>1: 均一


また,空間的な自己相関の観点からも,分布の集中を評価できる.
MoranのI統計量は全体的な自己相関の指標で,値が正なら正の自己相関,負なら負の自己相関が存在することを意味する.
Getis-OrdのGi統計量は局所的な自己相関の指標で,値が正ならホットスポット(大きな値が集中),負ならコールドスポット(小さな値が集中)であることを意味する.


さらに,方位や作業方向が原因となり,自己相関は方向によって異なる可能性がある.それを知るためにはセミバリオグラムを用いる.これで各方向の分散が2点間の距離に応じて変化する様子を表すことができる.
 シル:空間過程の分散 (Semivarianceの頭打ちになった値)
               (パーシャルシルは,曲線の切片を差し引いた値)
 レンジ:空間的自己相関がなくなる距離
                   (Semivarianceの値が頭打ちになる距離)


次は,雑草の繁殖様式や撹乱が雑草の空間分布特性に及ぼす影響を調べたい.

Review: 酒の市場と有意味化

佐藤淳(2021)『國酒の地域経済学』文眞堂,p95-119,第6章 國酒の成長戦略


日本酒の市場構造は,以下のように分けられる.
・大衆酒
 規模の経済による利益の最大化が図られる.
 が,需要は減少傾向で,純米酒においては規模の経済も限定的.
・中級酒
 品質の向上による差別化が図られる.
 原料や製造工程の開示が重要で,これはワインにおけるセパージュ主義と重なる.
・高級酒
 品質の向上に加え,ブランド化が図られる.
 意味づけが重要で,これはワインにおけるテロワール主義と重なる.


意味づけにおいては,抽象的な概念と具体的な行為・確信を結びつけることになるが,
それは社会的コンテクストに則ったものである必要がある.
抽象的な伝統とその地域性は模倣が困難であるが,どの地域でも差別化できる可能性がある.


個人的に考えるに,
セパージュ的な品質向上においては,行政や研究機関も積極的に関与して、科学的・技術的支援を行うことが有効である.
一方,テロワール的な意味づけにおいては,物語の構築は産地ごと・蔵ごとに独自に行う比重が大きい.
また,その裏づけには流通体制が不可欠で,自社栽培・契約栽培を含む産地・生産者の選択が可能でなければならない.


今度は,同じ層でも消費される場面によって需要がどう異なるのかーー接待時と遊興時などーーについても調べてみたい.
また,社会的コンテクストの分析とそれに基づく有意味化の方法論や,物語の形成とそれを伝えるための表現方法を学んでみたい.

Review: 食観光のボリュームゾーン

佐藤淳(2021)『國酒の地域経済学』文眞堂,p121-134,第7章 國酒と観光


一億総中流の時代は去り,市場は階層化しつつある.
人口も減りつつあり,よほど生産能力がない限り薄利で多売じゃ儲からない,というかそもそもできない.
マス層と富裕層で提供する価値を差別化し,需要調整することが必要だ.


限られた生産能力で高い利益率を挙げようとするなら,単価の高い客に濃密な体験をさせることが有効だ.
酒は,農業や食や工芸,そしてその背景にあるその地域の歴史風土を繋ぐハブになり得る.
客を地域に呼び込めば,地域を感じてもらいやすいし,流通コストは抑えられるし,他の多くの業種にも波及する.


しかし,ここからは私の個人的な考えだが,客とは他所から呼び込むもの,なのだろうか?
地元の人間が地域のことをあまり知らず,「味わい忘れている」ということもしばしばあるのではないだろうか.
各地域のエスタブリッシュメント層は,都市部のそれらともつながりがある.
彼らに濃密な体験をさせ,それを都市部をはじめとした他の地域にも伝えてもらうことが,
最も効率の良い手法であるように思われる.


次は,各地域のエスタブリッシュメント層が地元の文化をどう捉えどう消費しているか,
他地域からの客人をもてなす際にどうしているのかを調べてみたい.

農業技術に標準歩掛って無いの?

農業技術を開発するとき,作業にかかる時間や負荷は重要だ.
こういうことを開発の最後の最後に問われると困る.
早い段階から現場でのコストを意識しないと,何のための技術かわからなくなる.


実は私は,大学院修士課程を出た後,
しばらく土木資材を扱う会社に身を置き,新資材の開発に関わっていた.
で,資材にはひとつひとつ「標準歩掛」というものを付けていた.
この資材を例えば100m設置するのに必要な資材の量と,
(ここが肝心なのだが)人手の量(=人工(にんく))を記した簡単な表だ.
土木工事を発注する国や自治体などは,これを元に積算して資材費や人件費を出す.
税金を使ってやる仕事だもの,何かしら算出根拠がないといけないわけで.


農業機械の諸元には,作業速度が書いてあるものもあるけど・・・
農業分野の場合、機械や技術を導入することでどのくらいの効率化になるかがイマイチわからん.
標準歩掛をもとにコスト・労力の削減が数字で示せれば,導入の是非を検討しやすくなるはずだ.
逆に開発する側も,今の仕事がどれだけのインパクトを持つのかが示しやすくなるから、予算とか取ってきやすくなると思うんだけどなあ.


もちろん,傾斜とか圃場面積とかで所要時間は変わるけど,
それは土木も同じで,そんなこと言ってたらキリがないから,
条件に応じて何かの係数をかけて補正できるようにすればいいと思う.

スマート〇〇がスマートでなくなる日

いわゆる「スマート農業」呼ばれるものに接するときは,一歩引いて見るようにしている.
もちろん個々の技術は立派なものだし,私の研究内容もその範疇に入りうる.
が,それらを「スマート農業」と一括りに呼ぶことに釈然としないのだ.


僕は「スマート農業」とは呼ばずに,具体的なコンセプトや仕組みを言うようにしている.
「近接リモートセンシング」とか「意思決定支援システム」というように.
安易に「スマート農業」という言葉を使うと,全てを解決してくれるかのように歓迎する人もいれば,よく分からない胡散臭いものとして反発する人,自分には関係ないとシャッターを下ろしてしまう人もいる.
要するに,色眼鏡で見るのではなく,きちんと個別に評価してほしいのである.


「スマート〇〇」という言葉は「スマートフォン」が世に出て以降あっという間に氾濫した.
今日では,「新しくて今までにないもの実現してくれる(が,その内実はよく分からなくて自分たちとは縁遠い)」感じを表す言葉として,非常に便利に使われていると思う.
ややもすると,スマートという接頭辞をつけることで個別に内実を見ることを放棄し,悦に入ったり逆に退けたりすることが横行していないだろうか.


かつてナウくてヤングだと言われたものがもはやナウくもヤングでもないように,今スマートだと言われているものがスマートとみなされなくなる日が必ず来る.いや,来なくてはいけない.その時が来るまでスマートと呼ばれ続けるものはもはや裸の王様であって,ただ打ち倒される以外になくなるであろう.
「スマート〇〇」と呼ばれているものが真に市民権を得るには,自らそのカテゴリーの殻を破り,できることとできないことを示し,多くの人の協力を得ることが必要ではないだろうか.


次の世代の技術は何と総称されるようになるのか.
それとも今度は,安易な言葉に頼らずに,個別に評価することになるだろうか.
歴史を見る限り,後者にはならなさそうだ・・・